“しょっつる”とは、秋田県で古くから愛されてきた魚醤で、日本三大魚醤のひとつとされている。原材料は、秋田名物ハタハタと塩のみ。じっくりと熟成と発酵をさせたあと、琥珀色になるまで繰り返しろ過作業を行う。こうして作り上げられたしょっつるは、魚臭さも無くまろやかな味わい。近年、ハタハタは水揚げ量が激減し、それを原料とする“しょっつる”は貴重品となっている。代表的な郷土料理しょっつる鍋をはじめ、鍋物やサラダ、炒めもの、魚介系パスタなどにも使われ、コクのある旨みをプラスしてくれる調味料だ。
日本三大魚醤
魚醤とは、魚を塩と一緒に漬け込んで醗酵させた調味料のことです。
世界にはたくさんの種類の魚醤がありますが、日本では特にタイの「ナンプラー」が有名です。ナンプラーは、カタクチイワシなどの魚介類を塩に漬け込み、醗酵させて作られるエスニック料理に欠かせない調味料です。
日本は醗酵食文化が根付いており、多くの醗酵調味料や醗酵食品が日常の食卓で使われています。日本にも「日本三大魚醤」と呼ばれる特に有名な魚醤があります。
その「日本三大魚醤」は
魚醤 しょっつる
「しょっつる」は秋田県で作られる魚醤で、東北地方で採れるハタハタを醗酵させています。漢字では「塩魚汁」と書かれます。
しょっつるは秋田県で作られる魚醤の一種で、塩魚汁とも呼ばれます。ハタハタなどの魚に塩を加え、1年以上かけて熟成させて作られます。主成分はアミノ酸やペプチドであり、独特の風味と豊かなうま味を持ちます。秋田県の伝統的な調味料であり、江戸時代初期から製造されてきました。
歴史的には、江戸時代初期から秋田の民家でハタハタなどの近海魚を使ってしょっつるを製造していたとされています。一方、古くから魚醤の記述があることから、しょっつるの起源はさらに古い可能性も考えられています。
商業的な生産は明治時代初期から始まりました。20世紀前半までは多くの家庭が自家生産していましたが、現在は極めて少なくなり、秋田市、能代市、象潟町(現在のにかほ市)にある6か所の工場が生産を行っています。しょっつるの年間生産量は、1970年代には約200kL程度でしたが、近年では100トン以下に減少しています。
原料
原料としては、かつてはハタハタ(英語: Sailfin sandfish)を主に使用していました。秋田地方で豊富に採れて臭みが少ないことが大きな利点であり、特に産卵のため海岸に近づく12月に多く漁獲され、単価の低い雄が好んで材料とされていました。
しかし、20世紀後半にはハタハタの資源量が激減しましたが、全面禁漁などの対策により漁獲高が回復し、近年では再びハタハタが用いられるようになりました。
現代では、漁獲量が多く安価で鮮度が重視されるため、以下のような魚が使われています。5 - 6ヶ月の短期熟成では、それぞれ次のような特徴があります。
これらの特徴から、ハタハタやアジ、サバは長期熟成に、イワシは短期熟成に向いているとされています。また、近年では冷凍のハタハタやコウナゴなども使用されることがあります。
また、かつては食塩ではなく白塩が使用されていました。塩は、脱水作用により細菌の発育を防ぎ、酸素の溶解度を減少させるなどの働きによってしょっつるの保存性を高める役割を果たしています。
製法
しょっつるの製造過程は以下のように行われます。
まず、原料魚の頭部と内臓、尾を取り除き、魚に対して30 - 40%ほどの食塩を直接まぶしてよく混合します。内臓を除かずに丸ごと使用したり、大きな魚は切断する場合もあります。
その後、常温で1年以上漬け込み、自己消化酵素によるタンパク質の分解を進めます。この間、定期的に撹拌して塩分濃度の低い部分が生じて腐敗を防ぎます。
漬け込みが始まってから一定の期間が経過し、窒素量などをもとに熟成が終了することが決定されます。一般的には1 - 2年程度が終了の目安とされます。
熟成が終わった後には、骨など分解されなかった固形物を除去し、液体を沸騰させて約10分間加熱します。加熱によってエキスの移行とタンパク質の熱凝固が促進され、ろ過が容易になります。
その後、液体を冷却し、浮いた油脂を除去した後、濾布などを使ってろ過を行います。製品のクリアさが重要視されるため、かつては複数回ろ過を行うこともありました。
最後に60°C以上に加熱したまま瓶詰めをし、好塩性菌を殺菌します。近年では、瓶ではなくペットボトル入りの商品もあります。
自家消費用に生産する場合は、魚肉:塩:麹が8:1:1の割合になるように麹を準備し、塩と魚肉を交互に重ねて桶などで2 - 3年かけて熟成させることもあります。
麹には風味を良くする効果があるとされていましたが、家庭生産でも麹を加えないケースもありました。
利用
しょっつるはさまざまな料理に使われます。例えば、ハタハタと白菜などの野菜、豆腐を入れた「しょっつる鍋」や、ラーメンやうどんのスープにも利用されます。
また、ホタテガイの貝殻を器としたかやきにも使われることがあります。男鹿市ではご当地グルメとしてしょっつるを利用した「男鹿しょっつる焼きそば」が販売されています。